// お知らせ

 こんにちは。いつもサイトを訪れてくださって、ありがとうございます。
 さて、今回はうちのサイトにしてはめずらしく、お知らせがあります。といっても、私信と言っても良いぐらい、とても個人的なことですので気にならない方は読まなくても大丈夫です。
 簡単に言うと、ただでさえ亀の歩みほど遅い更新が、少しの間途絶える、ということです。少し、とは、数ヶ月かあるいは半年ぐらいかと思います。一年ほど掛かるかもしれません。

 なぜかと申しますと、本当に個人的な事情なのですが、家族がひとり、亡くなりました。そのためです。亡くなったのはブログでもときどき書いていました、あの弟です。交通事故でした。
 台風があった日曜日、弟はバスケ部の練習試合の帰り道、トラックに轢かれました。弟は傘を持っていなかったので、土砂降りの雨の中、自転車で帰っていたのですが、それが災いしました。まさか台風の中、自転車をこぐ男子高校生がいるなんて、トラックの運転手も思わなかったのでしょう。弟は三メートル以上飛ばされ、田んぼの中に落ちました。そのときにはまだ息があった(らしい)のですが、病院に運ばれてすぐ息を引き取りました。死体はわりと綺麗だったので、それには少し、ほっとしました。
 弟も悪い点があることはわかっていますから、運転手の方が百パーセント悪いとは私にも言い切れません。弟を轢いた後、ちゃんと救急車や警察を呼んでくれたわけですから、義務も果たしてくれました。
 しかし、やっぱり、悲しいのです。トラックさえなければ、弟は風邪を引くぐらいで済んだかもしれないのに、と思ってしまうのです。死ぬのが運転手の方だったら、なんて悪い考えも、わたしはとてもひどい人間なのでいくらか考えてしまいました。でも弟が悲しみ、罪悪感に駆られる姿も見たくない、なんてこれまた性質の悪い考えで落ち着きました。くりかえしますが、わたしはひどい人間です。
 弟の死をどうしてこんな細かく書くのがと言うと、わたしの気が済むように。理由はそれしかありません。弟の死をネットに刻み込もうだとか、運転手の方を責め立てようだとか、そういう考えはありません(そもそも、そういう考えがあるなら、もっと過激なことをしています笑)。ご了承ください。

 とまあ、そういうことがあったのです。葬儀だとかは一通り終わったのですが、心の準備? 整理? の時間として、サイトはしばらくお休みさせていただくことにします。本当は閉鎖しよう、と考えていたのですが、いつもお世話になっている春風ノ唄のカオルさんにご相談に乗ってもらったところ、お休みということにしました。
 といっても、コンテンツ等はそのままです。リンクしてくださってる方で、気になりましたら外してくださって結構です。ご迷惑をおかけします。

 以上が、お知らせでした。
 まとまらない文章で申し訳ありません。いつも駄文を原稿用紙何十枚と書いているはずなのに、今回は何から書けばいいのかさっぱりわからなくて、すっかり筆が止まってしまいました笑。変に考えると、弟のことで頭がぐちゃぐちゃになるので、とりあえず思いついたまま書いたら、大事なことも私情もめちゃくちゃになってしまいましたが……混乱していると言うことで、お許しください。

 何か連絡がある方はメールフォームによろしくお願いいたします。
 それでは、またお会いしましょう。なるべく早く戻ってこれるよう、頑張ります笑!

 *

 そうした文章があった。友人のそっけないサイトトップに張られた、お知らせというリンクから。
 わたしは何度も読み返し、そして、ウィンドウを消した。夕立が降ってきたので、母が洗濯物を一緒に取り込むよう急かしてきたからだ。母の元へ向かうと、二階のベランダに干していた布団を取り込むよう言われたので、いそいそと向った。大粒の雨はすでに布団をいくらか濡らしていて、遅かった。晴れていた頃に膨らんだ綿と、雨で濡れた重みを引きずり、家の中に取り込んだ。ベランダから下を覗くと、母はもうとっくにすべて取り込んだようだった。
 一階に戻ると、一息ついた母が、やるせない顔で洗濯物を部屋中にかけていた。

「ねえ、お母さん」
「なあに」
「死んだ人が文章を書いているのって、あるかな」
「遺書?」
「いや、死んだ後で、死んだ人が書くの」
「なにそれ」
「だよね」

 こちらを見向きもしない母の背中を一度だけ見て、パソコンの前に戻った。また、友人のサイトを開いた。お知らせがあり、あの長いまとまらない文章が載っていた。
 友人は、亡くなっている。
 事情自体は大体あっていて、弟を友人に、バスケ部の練習試合を買い物帰りに置き換えたら、そのままだ。わたしは、とても落ち着いた心持ちで携帯電話を手に取った。電話帳。や、ゆ。ゆーちゃん。電話をかける。
 呼び出し音を聞きながら、そういえばゆーちゃんバスケ部の練習中じゃないかしら、とも思ったけれど、すぐに出た。

「もしもし、幸彦ですが」
「ゆーちゃん」
「カオルさん」
「そうです」

 携帯を右耳から左耳へ。移す。ゆーちゃんこそ、死んだはずの弟さん、だった。
 なんて言おうか迷った後、結局、そのまま言った。

「サイト、見たよ」
「あ」

 あ、って。

「いや、あ、じゃなくてね、ゆーちゃん。っていうかやっぱりゆーちゃんなんだね。タキオさんかとも思ったんだけど」
「……タキオさんは、サイトのこと自体知らないですよ」

 タキオさんは友人の恋人だった。年上の社会人で、ずいぶん悲しんでいた。でもあのタイプの人は、いつかちゃんと立ち直って新しく恋人作れる人だと思うので、あまり心配はしていなかった。
 さほど悲しんでいなさそうなそぶりを見せるゆーちゃんこそ、わたしは心配だったのだ。

「なんであんなこと書いたの」
「いや」

 黙ってしまった。そもそもわたしが口出しできる問題ではないのかもしれないけれど、ただ聞きたかった。
 黙りこんでる最中、また受話器を移動させる。左耳から、右耳へ。

「なんか、話しづらいならそっち行っちゃうよ」
「いや、いいです。あの、別に理由なくて、なんとなく、やりたくて」
「なんとなく」
「うん。なんか、ネットの世界でだけ姉ちゃんを生かしたいとか、全然、そういうことじゃなくて、なんとなく。書いてみようって思っただけ」
「あら、そう」

 心理学的に見たら、いろいろ言いようがありそうな感じだけれど、わたしは素人だし、彼の本音を知りたいわけでもなかった。だから、もう聞きたいことはなかった。でも、つらい自分に酔ってドラマティックなことをしてみたかったような声色でなかったことには、正直安心してた。
 ゆーちゃんにはその安堵が伝わらなかったらしく、ごめんなさい、と改まった声で言われた。

「消します」
「いや、いいよ。別に。やめろって言いたかったわけじゃないから」
「や、カオルさんに見つかったらやめようって思ってたから。」
「え、なにそれ。やめてよ人をタイマー扱いするの。わたし、本当に消させる気はなかったんだから」

 どうせ四十九日を終えたら、ハードディスクを物理的に壊す、とは、友人が亡くなる前からずっと約束していた。サイトを教えあえるぐらいの仲の人間は、お互い一人しかいなかったからだ。このよくある冗談は守るべきなのか迷ったけれど、友人のご両親に相談したところ、写真とかのデータ以外は見られたくないだろうから、残したいものを保存したら後は好きに、と言われた。どうなんだろう、と思った。コピーして保存までは彼女との約束で考えていなかった。かといって遺族の意思というものもあるから、四十九日が終わったときに受け取ることを約束した。

「まあ、なんでもいいや。ゆーちゃん、四十九日には一緒にハードディスクぶち壊そう、とりあえず」
「うん、わかった。タキオさん呼ぶ?」
「どっちでも良いよ」
「じゃあ、呼ばない」
「うん、オッケー」

 ばいばい、と電話を切る。四十九日までは、まだ遠い夜だった。

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