形状記憶少女

// かぼちゃの赤ワイン煮~みつばを添えて~

 かぼちゃは泣いていた。ぐすんぐすんって鼻をうるさく鳴らして、部屋の片隅、膝を抱えて足の親指を妙にいじってる。かぼちゃは基本的には痩せているのだけど、なぜか脚だけ、それこそ大根みたいに太かったから、そうすると余計に太く見えるからやめたほうがいいのにってわたしは思って見ていた。かぼちゃが泣いているのは、いかにもかぼちゃらしい理由だ。男にふられ、なおかつ男を追い掛けている間育てていたピーマンを枯らしてしまったからだ。ピーマンなんて、どこのスーパーでも買えるようなものなのに、かぼちゃは人を殺したみたいに後悔して泣き続けてる。わたしはそんなかぼちゃがうっとうしい。
「あーうるせーうるせー。なんでこんな奴と一緒に住んでるのかしら」
 わざとらしく大声で文句を言うと、かぼちゃの泣き声はほんの一瞬小さくなって、でもやっぱり耐え切れなくて我慢した分まで声が大きくなって嫌になる。そうでしたそうでした、かぼちゃは嫌味を理解するけど意味がない奴でした、と長年付き合ってきたはずの自分の馬鹿さにも嫌になる。わたしはしかたなくかぼちゃに近付いて、かぼちゃの細い肩に手を置く。がりがりなのに、なんで脚は太ってるわたしより太いのかしら、と思いながら。
「かぼちゃ、わたしはね、静かに料理がしたいの。なんでもいいから昨日から食べてないご飯を食べたいの。かぼちゃも食べたいでしょ。でも外食は面倒だし、かぼちゃのお母さんが死ぬほど送ってきた野菜も消化しなきゃでしょ。分かる? 分かるでしょ。かぼちゃは馬鹿だけどそれぐらい分かるでしょ」
 かぼちゃはこくこく頷く。たぶんかぼちゃも昨日からご飯を食べてないからお腹が減っているはずだ。かぼちゃは田舎育ちのせいか箱入り娘のせいか、母親が送ってきた野菜と米しか食べれなくて、水もいつもアルプスの奴しか飲んでなくて、そのせいで外食にもいけなかったのだ。なのにかぼちゃは料理ができない。だから私が料理を作らなくっちゃ、野菜スティックを動物がごとくぼりぼり食べてるか、何も食べないで死にそうになって私にひもじい視線を送ってくる。わたしと住む前はどうしてたの、とか聞いてみるとおかーさんが作ったの送ってくれたか、恋人に作ってもらってたあ、と間抜けな返答。まじくずだなあ、かぼちゃ、と思うわたし(くず)。でもガチで思うのはかぼちゃはそんとき死んどきゃ良かったのだってこと。かぼちゃは生きるのに向いてない。きっと田舎にずーっとこもっていても母親が死んだ途端餓死してたに違いないのだ。それを心配した母親が都会に送り付けたはいいものの、結局ただ遠回りに母親の依存強めてるだけだし。かぼちゃは都会に来て一カ月で十八年間大事にされてきただろう(かぼちゃ自身はまったく大事にしてない、つーか膜の存在知ってたのかな)処女を男に騙されて喪失(笑)処女喪失(爆笑)なんかしちゃって、二カ月で振られて、つーかそもそも付き合ってなくてセックスしたから恋人でしょっていかにもカマトトバカなかぼちゃの思い込みに過ぎなくて、次には一目惚れした男をストーカーなんかしちゃって警察沙汰一歩手前でぎりぎり話し合いでお金とかそっと出してなんとかしてもらって、そのことを男友達に慰められて惚れちゃって突き合って下さい(意図的誤字)なんて告白したらそいつホストで元々狙われてただけじゃん! 許してくださーいって出したお金が結構な金額だから良いカモってばれただけじゃん! みたいなみたいなー? でもその男を追いかけてお金もそれなりに出したのにかぼちゃのうっとうしさがやばすぎて、ふられてしまったかぼちゃ。今のかぼちゃ。そんなかぼちゃの馬鹿さに気付いてないかぼちゃ母親は超馬鹿。かぼちゃ母親とかぼちゃ、一緒に死んじゃえよ、と思う糞なわたくし。でもめっちゃ良い案だと思うわたくし。
 野菜のワイン煮しようと思って取りだした赤ワインを味見っつって半分ぐらいごくごく飲んだわたしは、かぼちゃのこと考えて結構むかついてきてた。とりあえず腐りそうな野菜をありったけ段ボールから出して洗って皮剥いて適当に刻む。かぼちゃにんじんじゃがいもたまねぎぶろっこりーせろりかりふらわーれんこんあかぴーまんきぴーまんなど。ざっくざっくざっくざっく切っているし酔っているからそりゃ指ぐらい切りますよ、はいはい鉄分鉄分。まあ赤ワインだし良いでしょ、と切れた分血塗れた分気にせず一番でかい鍋にぶちこんで煮る。とりあえず煮る。赤ワインにーあとは水? コンソメ? 適当に行きましょう。大体それで失敗したことはない。ぐつぐつぐるぐる。
「かぼちゃ、野菜のワイン煮できるけど」
「食べう……」
 食べうってなんだよ。二十代の女がそんなんで許されると思うなよ、と思いつつ器に入れて差し出す。スプーンすら上手く使えない洋食器苦手のかぼちゃには、いつもの箸を添えてやる。余ったワインもグラスに注いで、はいおっけー。料理は良いな。差し出す相手にすげーいらついていてもなんか許してやるって感じになる。わたしは頭が悪いからうまく言えないけど。
 かぼちゃはもう泣きやんでいて、ただ目のあたりを腫れぼったくしてるだけだった。それでぱくぱく気持ち良く食べ始める。
「みつばちゃん、美味しいね、ワイン煮」
「明日のほうが味染み込むから、もっと美味しいよ」
「本当、楽しみ」
 かぼちゃは男に振られると死にそうなほど泣くけど、立ち直るのは結構早い。
「あー本当に美味しい、最後だからかなあ」
「最後って何」
 最後って、不穏な言葉だなって思う。
「お母さんにね、野菜送ってもらうの最後にしたの」
「は」
 嘘でしょ、つーか聞いてねえ、という言葉を言う前にかぼちゃは言う。
「もう、お母さんに頼るの良くないなって思って、とりあえず自分で野菜作ってそれで食べれたらいいなって思って、ピーマン育ててたの。でも、失敗したからね、それで泣いてたのもあるの、さっき」
 かぼちゃはワインをごくごく飲む。酒強くないのに、ごくごくと。酒で熱くなった喉を鳴らすのが好きなのだと言う。
「じゃあ、またかぼちゃ一人暮らしすんの」
「んー」
 おかわり、とグラスを差し出す。残りの赤ワインをすべて注ぐ。
「たぶん、すると思う。もう少し、生きるのに慣れたら」
「へえ」
 とか言いつつ、結構怒ってるわたし。かぼちゃは死ぬほど酔っている。だからわたしはじくじくと言う。
「かぼちゃ、わたしと付き合ってれば良かったのに。そうすりゃ道具使わない限り処女も喪失しなくて餓死しそうにもならなくてお金もなくさなくていろんな心配良かったのに」
 うーん、と眠そうな声で、かぼちゃはワインを飲みながら一言。
「みつばちゃんが、男だったらねえ」
 次の瞬間には、かぼちゃをわたしは犯す。しぬほどおかす。胸も腹も太すぎる足も舌も下も全部好き放題にして。それで最後に首しめて殺して、解体して野菜のワイン煮に放り込んだ。決め台詞一言。
「てめえは私の血で生きてんだよ!」
 そんな夢を見て、朝ちゅんちゅんと優しい小鳥の声色で起こされる。わたしとかぼちゃはその後二本ぐらい立て続けにワインを飲みほしたから、床で寝てしまったようだった。そしてわたし、バイトさぼってるし。
 かぼちゃはいなかった。散歩か買い物かに行ったのだろうか。わたしはお腹がもう減っていたので、昨日のワイン煮を温めて食べる。かぼちゃが帰ってくる前に、経血いれて野菜の経血煮にしたろか、とか考えながら、ワイン煮のかぼちゃを食べる。味が染み込んで、美味しかった。

( 110731 ) 戻る
inserted by FC2 system