// 地球食べてる

 白い器があった。中には透明な薄い茶色のスープに、小さな地球がごろごろと転がっていた。私はスプーンでまずスープを掬う。すする。コンソメスープの味がした。地球を皿の隅まで追いつめてスプーンの上に乗せる。口へ運ぶ。私の口には少し大きすぎるそれを、無理やり押し込む。じゃがいもの味がした。けれど私の脳裏にははっきりと、あの深い青色と緑色がこびりついていたので、また吐いてしまった。私は最近トイレが好きだった。すべて白くあるためだ。けれど吐き出していると、吐きだしているものすべて、青と緑と茶色で構成されていることに悲しくなる。それをごまかすように、最初からことを丁寧に思い出そうとして、失敗する。
 はじめはミニトマト、次はトマト、そして玉ねぎ、キャベツ、じゃがいも、それからの個別の順番は曖昧だ。とにかく、その他の野菜たちすべて。食べ物すべて。地球に見え始めたのがいつ頃だったか、もう忘れた。気付けば私の世界は、地球に溢れていた。
「すべてが地球であるのです。よりによっての、食べ物すべてが。気持ちが悪いのです。だから私は、食べられないでいるのです」
 むやみにぎゅっとくっつけた膝頭。胸元で両手を握りしめあう。禿頭の医者が唸る。私は病院も真っ白で好きだった。
「……結局のところ、うむ、地球を食らうという行為が怖いのでしょう」
「ええきっと、おそらく」
 医者はやわらかい笑い声をひとつあげた。
「安心して下さい、わたしたち人間は地球すべてに住む場所も食べるものがあるのです。つまり私たちは間接的であったり遠まわしでありながらも、地球を食らって生きているという事実は変わらないのです。だから安心して、地球のままお食べなさい」
 医者は力強く語る。私は何も言えないけれど、ただ顔をあげた。
 地球と目があった。

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