// かなしみの塊

 いろんなことが気にくわないねって、彼女は笑ってる。しょうがないから私も、そうだね、気にくわないね、ってオウムのように返してる。すると彼女は、満足げに微笑む。
 その一通りを終えて私が目をやるのは、毒づく彼女の薄い舌。いつでも驚くほど、赤く赤く隠れている。でも今日はなんだか、いつもよりもっと赤く見えた。どうしてかしら、と私がたずねると、彼女はどうしてかわかる、うふふ、と首をかしげて微笑んだ。わからない、と答えても、いっそう強く、うふふ、と笑うだけだった。私が困った顔を作ってようやく、にやにやしながら教えてくれる。
 飴をなめてるの、あかいあめ、すごく甘くて、きっと喉まで赤く染まってる、形が全部違うけど、大きなものだしね、なめ終わるのは、きっとまだまだ先のこと。
 そう言って彼女はくちびるとくちびるの間から、てらてら光る赤い舌を見せてきた。やっぱりいつもよりずっと赤くて、そしてその舌に丸め込まれた飴はもっともっと赤かった。背筋が震えた。私は思わず口走る。見てると不安になる、その赤い色、私好きじゃない。彼女はまた口の中に飴を戻して、そう、と返すだけだった。私はせめて、沈黙だけでも埋めようと、無理矢理笑って言った。
 その飴、悲しみの塊みたい、血の色をして、人によって大きさが違って、でもなめ続けなければならないのはみんな一緒、なめ終わったら幸せになるか、もしかしたら死ぬか。
 俯いていた彼女が口を開く。この飴は、いつまでも色も味も染みつくでしょう。とても嫌になる。でもなめ終わって色も味も忘れた頃に、きっと私はまたなめてしまう……。
 それから私も彼女も何も言わない。ただ彼女は同じ飴をひとつ、私の口の中に含ませた。私と彼女は静かになめる。吐きそうなほど甘い飴。彼女はころころ飴と歯がぶつかる音と一緒に、いろんなことが気にくわないね、と言った。私はただ、飴をなめている。

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