// 自動筆記・児童ヒッキィ

 たぶんもうどうでもよかったのだ。私にはどうしようもない出来事であるのだ。たとえば父が風呂に入り涙をのんでこの世に誓う。ぐるぐるとめぐるましく動く車輪を蹴っては吐きだし吐きだし私の足はもつれる。しょうがないので私はサンダルを片方だけ履いて爪先立ちの片足飛びで外へ出る。近所のおばさんは夫であろうおじさんにココアをひっかけて殺そうとしていた。プリンが食べたくなる光景だ。私はごきげんようと声をかけて、片足飛びが疲れたのでやめた。幸いどぶに幼児用の靴が沈んでいたので私は口で拾って口の中をじゃりじゃりさせながら掬いだした。携帯が欲しかった。さようならと声をかけてディナーしたかった。私はナイフを抱いてコンクリートの布団で眠る。私の一日はゆるやかに収束して、そのまままた展開することはないのだった。たぶんそういうのが死であるのだ。生とはなんぞや、と私は少年に問うた。少年の心臓がどくどくと脈打つたび、夜中の星がまたたいた。あるいは昼間の青空で月が凪いだ。私は嗤った。少女の手を取り、雲を見て走り、草原で転んで、少女を見失った。少女の着ていた白いワンピースだけが、青空へ舞い、雲になりかけ、蜘蛛になる。私のすべてに巣を張られた。胸に持ち上がる感情の処理に困ったので、ビルの屋上から飛び降りた。飛び降りては飛び降りて、飛び降りては飛び降りて、飛び降りた。雨が降っていた。そんな気がした。傘を拾って飛び降りた。心が沈む気がした。チョコレートを本に挟む。栞がわりに三枚ほど。そして本を読もう。なんでもいい。やめた。世界が終わるまで何をしよう。パソコンだ。やめた。やめた。生きるのをやめた。私は死んだ。おわり。終わってはない。私は終わりたがっているだけなのであった。今度が本当の終わり。脳味噌が爆発するような衝撃の愛をたくわえて。舌をかむたび切なくなるのはどうせ私なのだからと私はあきらめて切なくなってやっぱりまた涙してしまって夜中のどぶに走りだす。海へ届く前に死にますように。ココアの海へ飛び込みたい。血がココアになるといい。ヴァンホーテンが嗤っている。私は幸せなのです。こんにちはさようならまた明日。私はフォークをココアの海へ沈ませた。さようなら私。仮の自殺。本当は私がフォークなのかもしれないのにね。私は新たな私を求めて旅へ出よう。私はお財布を持って海へ飛び込んだ。そういうことだった。おわり。ほんとのほんとに、おわり。どうしようもないから、さ。

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