形状記憶少女

// 非生産的立会精子する

 おれは昔女になりたかった。それをふいに思い出したのは、パソコンで産婦人科もののAVを引っ張り出したときだ。どこぞのサンプル動画ではあったが、好きなAV女優が素人役で出ていたのでつい保存したまま、見ていなかったものである。
 おれが女になりたかったのは、男が好きだったからじゃない。子を孕み、産みたかったからだ。ひどく言うならば、産む機械になりたかったのだ。
 昔から男というものがどうにも納得できなかった。女の中に種を出してそれきり、女がひとり重い腹を抱えて、時期になって産む。なんと男は身勝手自由なことか。いや、女の中に出すならまだよい。おれのような童貞なんぞ、画面や紙の女に向けて一億ほどの精子を、人の命になれるものを生み出した瞬間殺しているのだ。あるいは、これはおれだ。おれという一億のおれを一瞬で自殺させるのだ。なんと、非生産的なことだろう。思春期の男子など、これを毎日繰り返すではないか!
 おれはそんな哲学じみたことを考えながらも、性器を固くして、左手でなお一生懸命こすり、右手で動画を再生させるのだった。滑稽だった。それでもこれがおれなのだ。男なのだ。人未満を一億人、さあ、今にも殺すぞ! おれは殺すぞ! おれは大量殺人鬼だ!
 頭の中ではそうして胸を張っている。だが、いつかのおれを思うとつい胸が痛んだ。女となって子を産みたい。そうして生産性を求めていたおれが、それがどうだ。今では人殺しとうたって喜んでいる。ふいに涙がこぼれかけ、我慢しようとうつむいた。だがタイミングが悪かった。女の達する声、射精、そして、母親がおれの部屋にノックもせず入る。すべてが一堂に会して見せた。おれの顔は自らの精液に汚れるが、反射的に母親の顔を見た。どろり、と精液が頬を伝った。むやみな恥と絶望。そしてその中で、不意に美しい希望が湧き起こった。
 これは何がどうして良いことだ! おれは偶然にも母親に立ち会われたのだ。出産と中絶を。立会出産と立ち会い中絶だ。そうして生まれて死んだ子すらも、見せつけた。なんと麗しい、感動的な瞬間だ。おれは女も同然だ。おれは長く忘れていた夢を、今、偶然にも唐突に叶えてみせたのだ。おれは今も呆然とする母親がいるのも構わず、耐えきれず涙し、顔を涙と精液でさらに汚した。母親はおろおろとしてみせ、最後には何もなかったかのように部屋を出て行こうとしたので、その後ろ姿に叫んでやった。
「おれは女だ! 女になったのだ!」
 おれは感涙に溺れた。母もまた、その場で泣き崩れたのだった。

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