形状記憶少女

// 盲目恋愛

 悪魔と人間が住む村に、美しい娘がいました。金色の髪と青い瞳、そして真っ白な肌は誰もが美しいと思いました。何人もの青年が求婚しましたが、いずれも彼女が首を振ることはありません。村人達は「きっと彼女には心に決めた人がいるのだろう」と思っていました。たしかにその通りでしたが、決して報われる恋ではなかったのです。娘は、悪魔に恋をしていたのです。
 たしかに悪魔と人間が住んでいた村でしたが、決して関わることはありません。どころか、姿を見せることすらありません。 それは古くからの村の決まりでした。ただ娘はある日偶然、悪魔を見かけ、一目惚れしてしまっただけなのです。娘は毎晩どうしようもなく恋焦がれ、涙を流し、嘆きました。そんなとき、娘は思いつきました。
「そうだわ!人間と悪魔同士の恋愛がいけないのならば、悪魔になればいいのだわ!」
 それから毎晩、娘は神様に祈るようになりました。
「神様、どうか私を悪魔にしてください。真っ黒な翼をください。真っ黒な髪をください。真っ黒な瞳をください。他には何にもいりません!」
 それを聞いた神様は、まったく困りました。神様も娘の美しさを愛していた一人だったのです。いくら神様でも、人間を悪魔にすることはできません。ですが娘の切実な願いを、ちょっとだけ叶えてあげることにしました。
 ある朝、娘が目を覚まし鏡を覗くと、青かった瞳は真っ黒に染まっていました。娘は大喜びです。悪魔にはなれませんでしたが、確実に近づいていることを感じました。娘はまた毎晩祈り続けました。
「神様、どうか私を悪魔にしてください。真っ黒な翼をください。真っ黒な髪をください。他には何にもいりません!」
 神様はまたもや困りました。ですが娘の喜ぶ姿を見たいばかりに、やはりちょっとだけ叶えてあげました。
 ある朝、娘が目を覚まし鏡を覗くと、金色に輝いていた髪は、真っ黒に染まっていました。娘はやはり大喜びです。神様はほっとしましたが、娘は祈ることをやめませんでした。
「神様、どうか私を悪魔にしてください。真っ黒な翼をください。他にはもう、何にもいりません!」
 神様は困り果てました。いくら娘の容姿が悪魔に近づいても、所詮人間です。悪魔に避けられ、人間にも蔑まれる娘を想像すると、神様は悲しくなりました。神様は悩みぬいた末、娘の願いを叶えてやることにしました。娘が悪魔に避けられることも、蔑まされることもないように。
 ある朝、娘が目を覚ますと、いつもと体の調子が違うことに気付きました。腕がなんだか変な感じです。首を曲げて腕を見ると、そこには真っ黒な翼がありました。娘はそれはそれは、大喜びしました。神様に何度も何度もお礼を言いました。
 三日三晩喜び続けた娘は、ふと鏡を覗きました。娘はカラスになっていました。

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