// ゆらりおもい

 彼女は泣いていた。わたしはその様子を見てとても申し訳なく思う。決して彼女の泣いているところを見ていると、何故か、自らの罪を具体化させられたように胸が痛い。泣かないで、などとつまらない台詞を吐く気にもなれなかった。ただ冬の晴れた青い空と、澄んだ冷たい空気があんまりに痛々しかった。たぶん、わたしがもうちょっと女の子らしかったら、彼女の一緒に涙を流して抱き締めあっていただろう。
 彼女が泣いているのは、それはもう女の子らしく、片思いをしていた人に告白し振られてしまった、という理由だ。ずっと好きだったそうだ。幼稚園の頃から、小学生へ、中学生、高校生と経ても、ずっと。最初は友人として好きだと思っていたはずが、気がつくと周りの女の子が格好良いアイドルや先輩に熱を上げてて、自分は未だその人のことが好きだった、という。なんともつまらない、可愛らしい話だ。きっと彼女以外にそんなことを言われたならば、わたしは鼻で笑っただろう。例え表面上必死に慰めても、心の中では気持ち悪いと思っただろう。だが、生憎、気持ち悪かったはずの人は、彼女だった。世界中の何十億人もいる中の、彼女だった。
 わたしは、彼女より少し大きめの体で抱きしめる。が、手で払われた。彼女はぐすんぐすん、鼻を鳴らして泣いていた。ああ、彼女は、もうわたしというわたしを求めていないのだ、と思った。とても悲しかった。けれど、わたしは無理矢理抱きしめてやった。悲しかったと同時に、悔しかったのだ。わたしはまだ彼女と一緒にいたいと思うし、彼女だってこんなことでわたしと離れ離れになることを願うはずがない。わたしは、今世界中の誰よりも、ずるい。

「わたし、あなたを友達としか見られないけど、世界中の誰よりも、あなたと一緒にいたいと思う」
 青春野球漫画でも思い出させる台詞だと思った。でも、心底そう思っていたのだ。わたしは彼女に、ぎゅっと腰辺りを抱きしめられた。細い腕の感触が、鎖のようにとても痛かった。

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