// ごめんね

「君が」
 と、私は震えた唇で、無理矢理呟いた。 声も自然と震える。 恐ろしいことでも口にするように。 口にしてはいけないことを口にするように。 実際、そうだ。 これは恐ろしく、口にしてはいけないこと。
「君が、いけないんだ」
 ほろほろ涙が落ちる。 落下する。 地面に着地する。 地面に吸い込まれる。 そんな涙の一通りの行動をみやる。 彼の目は見れない。
「私は悪くない。君が悪いんだから」
 暗い黒い彼の瞳が怖くて、俯いたまま。 彼を責める。 彼は悪くない。 悪いのは私なんだ。 それなのに何故。 どうして。 彼は否定しない。 肯定も、しない? 彼が、口を開いた。
「ごめんね」
 ただそれだけだった。 否定も肯定も何もしないでただ、謝罪。 それが私を逆に揺さぶりいらつかせ、泣きたくなった。 今も泣いているから、さらに、激しく。 泣きたくてしょうがなかった。 好きなだけ泣いて、好きなだけ彼を 罵れたらどれだけいいだろう、と。 考えようとして、やめた。 あまりにも虚しくて痛くて悲しいそんな空想。 さよならだ。 終わりだ。
「ごめんね」
 私は鸚鵡返しした。 ほろほろ、ほろほろ。
「ごめんね」
 繰り返して、繰り返す。 ただただ、私はあなたが。
 決して、嫌いではない。

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