// 輪廻

 僕は何百回も死んでいる。 今は生きているけど、何千回も死んでいる。 たしかそんな童話があったような気がするが 読んだことはないので知らない。 けれど普通の死とは確実に意味が違うもっと浅いものだ。 人は死にとても必死になる。 どんなに無関心であろうと、確実に本能は何かに囚われる。
 僕はその人間の美しい死が酷く好きだ。 僕みたいに安易なシロモノじゃないそれが好きだ。 ああやって死ねれたらいいのにと思う。 でも死ねない。 難しい。
 いっそ人になれればいいのに、と思う。 人じゃなくても良い。 なんでもいいからなってみたい。 死を恐れたりできるものに。
 あ。
 もう時間だ。 今日はやけに早い。 真面目にやらなかったせいか。 また記録更新しちゃうじゃないか。 僕はまだ話したいのに。 まあいいや。 また今度はなそう。
 僕の中のものがきりきり止まる音。
「あ、止まっちゃった。廻さなきゃ」
 きりきり、きりきり。
「ようし、動いた」
 きりきり、僕の中のものが動き始める音。 僕は目を覚ます。
 やあ、こんにちは。 僕は螺子巻き玩具。 僕は何百回も死んでいる。 ところで君は誰だい? どうやら僕を知っているようだけど。
 まあいいや。 僕は何百回も死んでいるけど、僕は死にたくない。 何故なら僕は生きているから。 人間みたいに死ななくてもいい。 今の死には充分満足している。 あれ、こまったな止まりそうだ。 やけに短い。 死にたくないのに。 僕はもっともっと生き
「ああ、もう。これだから古い玩具は」
 きりきり、きりきり。
 ぱちり、と目を覚ます。 こんにちは!  私は螺子巻き玩具。 何百回も死んでいるの。
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