形状記憶少女

// 優しい休息

 僕は死んでいる。 僕は生きてはいない。 まるでどちらも同じ表現のように並べて見せるけど それらはまるで違う言葉。 まるで重ならない、けれど対にもなりきれない。 そんな言葉たち。
 僕は大抵歩いている。 歩くのが好きなわけじゃない。 惰性とでも言おうか。 いや、強制とでも言おうか。 どちらにせよ、どちらでもいい。 僕は歩き続ける。 ぐるぐると巡るましく廻り続ける何かが、僕の中にある。 それのために僕は歩き続ける。 それが僕のためにために廻り続けるのかもしれない。 これは強制ではなく、共生なのだろうか。 つまらない話だ。
 ゆっくりと、僕の中のものが止まろうとする。 嗚呼、と思った。 僕は生きることができないようだ。 恐れはない。 今までだって、何度もあった。 恐れるべきものではない。 繰り返しその言葉を思う。
 止まる直前、大きな何かにぶつかった。 こつん、と。 それはすこし柔らかい。 その大きな何かがつまらなそうに呟いた。 その時はすでに止まっていたけれど、何故か聞こえる。
「もう止まっちゃった」
 そう言って、ぐるぐると僕の後ろの螺子をまわす。 僕の原動力。 僕はそれが廻るから動くだけ。 共生でもなんでもない、それは必然。 けれど廻して地面においても、僕は動かない。 どうやら僕は本当に死んでしまったようだ。
 動かないことが、僕にとっての死。 原動力が壊れたからとかそんな現実的な問題じゃなくて。 役目が終わったから死んだのだ。 都合のいい解釈。
「あーあ。壊れちゃった」
 拾われる。 ようやく真正面以外見れなかった僕は、主人の顔を見る。 幼い、正直あまり可愛くない顔立ち。 僕を買った父親とよく似てる。 きっと思春期になったら、父を憎むだろう。 僕はそっとほくそ笑む。
「お母さんに新しく買ってもらおうっと」
 ぽいっと乱暴に投げ捨てられる。 玩具なので、痛みはない。 でももしかしたら、僕は痛むことができるけど 今までたまたま調子が悪かっただけなのかもしれないと思った。 でもすぐに考えるのをやめた。 何故なら痛みがもしあるなら、僕は確実に止まった瞬間 声を張り上げて赤ん坊のように泣きじゃくっただろうから。
 僕の中の機械が、知らせる。 もう終わりだよと。 わかったよ、と僕は返事をする。 機械は優しく言った。 おやすみ、と。 僕は死ぬのに? おやすみなの? 不思議に思ったけれど、やけに言葉がしっくりきたので聞かなかった。 僕は返事を返す。
 おやすみ。
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