// エピローグ

結局さ、アイスじゃなかったら何なんだよ。
少年は立てられたばかりの看板の下で座り込みながら、呟きました。
少年は綺麗な黒髪のショートカットと、赤い瞳を持っています。
ただ、その赤い瞳は純粋なものではなく、色のついたコンタクトレンズなだけですが。
隣の丸眼鏡をかけた青年が、少年に首を傾げながら尋ねかけます。
アイスって、何のこと?
何処か遠くを見ていたので少年のほうへ向きなおす際に、彼の白く長い髪が自身の頬をくすぐりました。
少年は少しいらついたように、題名のことだと告げました。
ビタミンCが足りないのかもしれません。
本当のところは、単に性格が短気なだけでしょう。
それに青年は納得した様子で、微笑みながら頷きました。
その微笑みは作中では見られなかった、優しい優しい微笑みです。
ですが少年にとっては気持ちの悪いものでしかないようで、すこし引いていました。
それでも優しい微笑みのまま、彼は言いました。
本当はPiNoesなんて言葉は存在しないんだよ、造語って奴だね。
でも、元の言葉はちゃんとあるよ。
元の言葉? と少年はぼんやり立っている青年に、上目遣いで見やりました。
その視線に青年はおどけたように返します。
おいおい、上目遣いなんかして、僕を悩殺する気かい?
大人としてというよりも、人間として最低の返し方です。
殺す、と本気めいた口調で少年が呟きました。
どす黒いオーラが見えるような気がします。
それを青年も感じ取ったのでしょう、冗談だと誤魔化しました。
それで、結局元の言葉ってなんだよ。
少年がどす黒いオーラを完全に仕舞う前に尋ねます。
青年が頷きました。
うん、まあそのままさ。ピノキオって童話を知っているだろう。
その言葉に少しだけ険しい表情をして、少年が言います。
お前……ディズニーに消されるぞ。
大丈夫さ、消されるのは僕らの存在じゃなくて、作者のほうだから。
とても酷い暴言です。
作者は影で泣いているかもしれません。
でも結局のところ作者に暴言を吐いているキャラを作ってるのは
作者なのですから、作者はマゾヒストでしかないのでしょう。

少年が一つ大きな溜息をつきました。
結局、ピノキオがなんだよ。
青年は微笑みます。
つまるところはだね。

みんな嘘つき、ってことさ。

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