// プロローグ

注意書きを立てておいたほうがいいかもしれないね。
と、彼は言った。
彼はとても細身で、長い白髪をしていた。
それに丸眼鏡もしている。
目が悪いのだろう。
彼の近くにいた、小さな少年が面倒臭そうに返した。
別に、そんなものはいらないだろう、と。
少年は真っ赤な瞳と真っ黒な髪以外は、極普通の生意気そうな少年だった。
けれど、と彼が苦笑しながら返す。
僕と君の恋愛小説だと思われたら、嫌だろう?
少年は先程よりも眉間をぐっと寄せて、答えた。
嫌だ。
そのシンプルな回答に、彼は笑って頷いた。
まあ、そんなことはないとは思うけれど、と。
そういいながら彼は注意書きを立てる。
「この物語は、一切アイスのピノとは関係ございません。
 主人公である僕はピノは好きです。
 でもやっぱり関係はありません。
 ピノが目当てだったのに、という残念な方は申し訳ありません」
そこまで書いたのをみて、少年は訝しげに彼を見やる。
彼は冗句っぽく、おやおや、僕に恋をしてしまったのかな、とかなんとか言った。
いや、してねえよ。
一刀両断する少年に、今度は素直に尋ねる彼。
まったく、どうしたんだい?
この注意書き、要らないだろ。絶対。
いやだな、こんなわざとらしい題名に、惹かれてしまった人が居るじゃないか。
いねえよ。
いやいや、ほら、画面の目の前にいるじゃないか。
例え画面の前に人がいたとしても、ピノ目当てじゃねーだろ。
そんなの、わからないだろう?
お前がわかんねえよ。
そんな会話をしつつ、彼と少年が自然と闇に紛れていくわけです。
ここであえて一言言っておくとするならば。
彼の立てた注意書きに決して間違いはありませんが
注意書きを立てることに間違いがあったのでしょう。
ちなみに、題名は「PiNoes(ピノーズ)」と言います。
決してアイスのピノとは関係ありません。

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